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偏愛ドリップガール

気持ち悪くなる程度に愛してる

「きみが眠っている」

「いやになったんだ」

 僕はそう唱えた。魔法の呪文を、君にきらっていただく言葉を。この魔法の効き目は抜群だと僕は分かっている。

 君は傷つく癖に、僕から離れないのも分かっている。分かりきっているのに、まだこの呪文を信じるのだ。

「わたしはいやじゃないよ」

 僕が作ったシチューを食べて、にこりと笑う。シチューよりも優しくて暖かい笑顔だ。

「ぼくはいやになったよ」

「それでもいいよ」

 君はスプーンを口に含んで、食事を楽しんでいる。

「わたしはいやじゃないもの」

 君の言葉は魔法だ。僕を悲しい気持ちにさせる呪文ばかり。僕は魔法は使えない。僕の言葉は君に効かない。

「きみもいやじゃないでしょ」

 うん、いやじゃない。危うくそう鸚鵡返してしまいそうになって、慌てて口を噤む。

「こんやはあかるいね」

 それにはただ、うん、と返した。今夜は満月だ。

 夜が深まっていく。